
会社を経営していると、どこかでこんな声が聞こえてくることがあります。
- 「もっと売上を伸ばさなきゃ」
- 「社員を増やさなきゃ」
- 「規模を拡大させるべきだ」
- 「会社は大きくするほど価値がある」
最初は違和感があっても、周りがそう言うから。
世の中に「大きい=正しい(成長している)」「小さい=発展途上」のような価値観があるから。
なんとなく自分も、その方向に進まなくてはいけないような気がしてしまう。
私自身も、かつてはこの“拡大こそ正義”という世界の中にいました。
ただ、ある時ふと気づいたんです。
規模を追いかけているうちに、仕事の中心にいたはずの「お客様」の姿が、見えづらくなっていくことに。
そしてその違和感の正体が、ステイ・スモール(原題:Company of One)という本と出会ったことで、はっきり分かりました。
拡大を追い求めすぎると、会社が“獣(けだもの)”のようになり、自分を食いつくしてしまう―
この言葉が胸に刺さったのです。
今回の記事は、この本「ステイ・スモール」から得た気づきと、私自身の実体験、そして禅の考え方を通して、
「なぜ拡大を手放すと、かえって仕事は整うのか?」
というテーマを、ゆっくり一緒に考えていく内容です。
この記事の要約:「会社の奴隷にならない働き方」のポイント
| 拡大至上主義の罠 | 規模拡大を最優先すると、会社が“獣”となり、経営者の人生を喰いつくしてしまう。 |
|---|---|
| 餓鬼化のメカニズム | 売上・フォロワー・名声を追うほど、心が飢える。仏典「貨幣の雨を降らすとも、欲望の満たされることはない」。 |
| 三尺三寸箸の原理 | 同じ環境でも“奪う姿勢”は地獄、“与える姿勢”は天国になる。ビジネスも自利利他円満が大事。 |
| 売上は「お客様の笑顔」の副産物 | 売上は第一目標ではなく、丁寧に価値提供した結果として自然に生まれる。ステイ・スモールの核心。 |
| 小さくいるのは「戦略」 | 小さい会社は「発展途上」ではなく“選択”。自由・丁寧さ・顧客との距離を守る働き方。 |
これらについて、以下で分かりやすくお話します。
会社が“獣”になるとき
ステイ・スモールの中で、こんな一文があります。
規模の拡大に執着すると、会社はあなたを喰らう獣になる
読んだ瞬間、私は思いました。
「ああ、これは過去の自分だ」と。
獣(会社)の“餌”である売上を伸ばすために、常に数字を追い続ける。
もっと増やさなきゃ、もっと上を目指さなきゃ、と焦るほど、心はすり減っていく。
そして、ある時気づくんです。
- 自分は一体、何のために働いているんだろう?
- 誰のために提案しているんだろう?
- このサービスは本当にお客様のためなのか?
- それとも、獣の腹を満たすために提案しているだけなのか?
こんな問いが頭に浮かび始めたら、すでに“獣に振り回されている(会社の奴隷になっている)”状態です。
仏典ダンマパダには、こんな言葉があります。
たとえ貨幣の雨を降らすとも、欲望の満たされることはない
欲は、一度火がつくと、どれだけ与えても満たされることがありません。
餓鬼(がき)がどれだけ食べても飢えが満たされないように、拡大を第一目標にしてしまうと、永遠に「まだ足りない」「もっと!もっと!」という感覚から抜け出せなくなるのです。
私もその一人でした。
数字を追うほどに、目の前のお客様よりも「獣の腹の具合」が気になる。
そんな働き方は、お客様のためにも、自分のためにも良いものではありませんでした。
三尺三寸箸に見る“天国と地獄”
この本を読みながら、私は「三尺三寸箸」という寓話を思い出しました。
地獄の風景

このお話は、ある男が天国と地獄を見学する場面から始まります。
まず地獄に行くと、豪華な食卓を囲んだ人たちが、お腹を空かせて苦しんでいる。
食べ物は十分にあるのに、みんな痩せこけ、怒り、争っている。
理由は“箸”でした。
彼らが使っているのは、三尺三寸(約1メートル)の長い箸。
あまりにも長すぎて、自分の口に食べ物を運べないのです。
奪い合い、怒鳴り合い、満たされることのない地獄の風景。
天国の風景

次に、天国を見に行った男は、驚きました。
そこでも、地獄と全く同じ光景が広がっているのです。
豪華な食卓。
三尺三寸(約1メートル)の長い箸。
同じ種類の料理。
違っていたのは、たったひとつ。
天国の人たちは、その長い箸を使って、向かいの人の口に食べ物を運んでいた。
箸が長いので、食卓の向こう側に座っている人にちょうど届くのです。
「何が食べたい?」
「これはどう?」
相手に与えることで、自分もまた与えられる。
同じ環境なのに、地獄と天国に分かれてしまうのは、この“心の向き”の違いなのです。
この寓話を思い出した時、私はステイ・スモールの言葉と重なったのを感じました。
規模拡大にとらわれた働き方は、地獄の食卓に似ている。
与える働き方は、天国の食卓に似ている。
自分のためだけに働くと満たされない。
誰かのために働くと満たされる。
そして、その満たされ方は“静かで深く、持続する”ものです。
“小さく働く”ことで、利他が戻ってくる
ビジネスは本来、利他で成り立っています。
- お客様の悩みを解決する
- 誰かの未来を支える
- 価値を提供する
その結果として売上が生まれる。
順番はいつも「相手 → 自分」です。
しかし、拡大のプレッシャーを受け続けると、この順番が狂ってしまいます。
最優先が「獣(会社)」になり、あなたはその奴隷になり、お客様が見えなくなります。
これでは、三尺三寸箸の“地獄側”です。
でも、小さく働くと、利他が自然に戻ってきます。
お客様と静かに向き合える。
その人に本当に必要なものを見極められる。
提案に迷いがなくなる。
すると、不思議ですが自分の心も落ち着いていくのです。
私は、これが“ステイ・スモールの本当の価値”だと感じました。
売上は「お客様の笑顔」の副産物

拡大を目指していた頃の私は、売上という数字が、“主役”になっていました。
数字を見て一喜一憂し、その増減によって心が揺れてしまう。
頭では分かっていても、売上に縛られると、どうしても働き方が「自分寄り」になっていくのです。
ですが、小さく働くようになってから気づいたことがあります。
売上とは、
「お客様の笑顔」という本質が満たされたあとに残る、「副産物」のようなもの、
だということです。
売上を目的にすると、ずっとお金を追い続けることになります。
しかし、お客様のために丁寧に働くと、売上は自然とついてきます。
禅の言葉でいうと、「結果自然成(けっか じねんなり)」に近いのかもしれません。
執着を手放し、目の前の大切なことに集中すれば、必要なものは自然と手に入る。
結果自然成(けっか じねんなり)とは?
これはビジネスにも、そのまま当てはまります。
私は今でも、自分に問い続けています。
(この提案は、本当に目の前の人のためになっているだろうか?)
(獣に餌を与えるために提案していないだろうか?)
この問いを持つことで、自然と“利他”の軸に戻れます。
そして、その結果として売上が生まれる。
この循環が、一番健全だと感じています。
小さな会社は“発展途上”ではなく“選択”
社会の中には、「成長=拡大」という前提があります。
だからこそ、小さく留まることを選ぶと、どこかで説明しづらさを感じてしまう。
なんとなく、「小さい会社 = 大きくなる前の“発展途上”の状態」のように感じてしまいませんか?
でも、そんなことはありません。
- 小さいからこそ、できる働き方がある。
- 小さいからこそ、守れる価値がある。
- 小さいからこそ、好きな仕事で貢献できる。
規模を大きくするのは「正解」ではなく、あくまで「選択」です。
そして、小さくいることもまた、立派な「選択」なのです。
これについては、以下の記事でも詳しく解説していますので、合わせてお読みください。
小さくあることで守れるもの
- 自分のペース
- 丁寧な仕事
- お客様との距離感
- 心の静けさ
- 余白のある働き方
これらは、拡大を目指していた頃には手に入りませんでした。
むしろ、拡大を優先していた頃の私は、
“自分の会社なのに縛られている”ような感覚すらあったのです。
今ならはっきり言えます。
「小さくいることは、自分の人生を守る選択だ」 と。
“利他”を中心に置くと、仕事は自然と整う
三尺三寸箸の話を思い出すたびに、私はこう感じるのです。
ビジネスは、本来「与える行為」であると。
- 相手に食べさせるから、自分も食べられる。
- お客様を満たすから、自分も満たされる。
- 利他を中心に置くから、自利(売上)が自然とついてくる。
ステイ・スモールは、この働き方を“戦略”として提示していますが、
東洋哲学の世界では、自利利他は“生きる姿勢”そのものです。
どちらの視点で見ても、与える働き方は持続的で、幸福感があり、穏やかです。
自利利他(じり りた)とは?
自利利他円満(じり りた えんまん)、とも言われます。
自利利他の働き方がもたらす変化
- 提案に迷いがなくなる
- 無理な営業が消える
- 顧客との関係が深まる
- 自分自身も満たされる
- 結果として売上が安定する
私は、これが一番自然な働き方なのだと思っています。
“拡大”という呪いから離れる

実際、規模拡大のほとんどは、次の4つの理由から生まれると言われています。
- インフレ
- 投資家
- 顧客離れへの恐れ
- エゴ
この中でも、特に厄介なのが「エゴ」です。
「すごいと思われたい」
「大きい会社だと見られたい」
「影響力があるように見せたい」
こうした欲が、獣を育て、餓鬼を生みます。
しかし、エゴを手放し、“どんな毎日を送りたいか?”からビジネスを逆算すると、働き方は驚くほど変わります。
私はもう、獣の腹を満たすために働く生活には戻りません。
小さく、丁寧に。
お客様と自分に向き合う働き方のほうが、私には合っています。
そして、この生き方のほうが、豊かだなと感じます。
結び:「拡大」「充足」どちらを選びますか?
三尺三寸箸の天国と地獄は、環境の違いではありませんでした。
働き方もまた、規模ではなく“心の向き”で決まります。
奪う働き方は、どれだけ規模が大きくても地獄に近づく。
与える働き方は、どれだけ小さくても天国に近づく。
これは決して、「規模拡大=悪」ということではありません。
ステイ・スモールは、規模の話ではなく、
「どんな心で働くのか?」という問いを投げかけているのだと思います。
会社(獣:けだもの)の奴隷になるのではなく、あなた自身が満たされた気持ちで働ける。
そんな規模が、あなたにとっての正解なのかもしれません。
- あなたは、会社を大きくしたいのですか?
- それとも、満たされたものにしたいのですか?
その答えが、これからの働き方を決めていくはずです。









